蒲田駅西口のサンロードアーケード街に商品棚がスカスカの金物屋がある。(有)八木商店。60過ぎの店主が小柄のおとなしそうな老人を相手に「そもそも刃物とは…」の話をしている。話は延々と続く。何しろ専門家の話だから無駄ではない。老人は黙って聞いている。店主の話はますます熱を帯びてくる。私は後ろで立って聞いている。老人は研ぎ終わった包丁をありがたく受け取って店を出た。
今度は私の番だ。「この店は燕三条の製品を扱っているのですか」と聞けば、店主の話はスタートする。「そうだ。燕三条の製品を扱っている。私は燕の人間ではない。調布の出身だ」。奥さんの作ってくれた「弁当を持って毎日店に出勤している」という。
話は止まらない。砥石の質問をすると「荒砥石、中砥石、仕上げ砥石とあるが1つあれば十分だ。包丁が切れなくなったら砥げばいい。それだけだ」。
どうやら口数は多いが正直な人間のようだ。私は内心「いい暇つぶしの場所ができた」と思った。